2012年2月12日日曜日

近江商人とCSR


二○○三年に社団法人経済同友会は、『「市場の進化」と社会的責任経営―企業の信頼構築と持続的価値創造に向けて』と題する企業白書を刊行しました。この企業白書では、新しい意味での企業の社会的責任をCSRCorporate Social Responsibility)と、あえて横文字で表現しているのです。以後、にわかに書店にはCSR関係の書籍が並び、企業はCSR室を設けるなど、CSRという言葉が氾濫するようになりました。

CSRが台頭してきた背景には、もはや放置できなくなった地球環境の異変と内外で頻発する企業の不祥事があることはいうまでもないでしょう。これらの危機的状況に対応する方策としてCSR経営ということが企業の側から提言されるようになったのです。

それでは、旧来の企業の社会的責任と現今のCSRの違いは何か。

これまで言われてきたような企業の社会的責任の中身は、経済的価値の優先実現、コストとしての社会貢献、義務的取り組みとしての法令順守でした。これに対して新しいCSRの考え方は、社会的価値と経済的価値の実現は一体のものなので、CSRに取り組むことは利益を生む投資であると考えるべきであり、義務としての法令順守を超えた自主的な取り組みであると主張するものです。

現今のCSRは利益を生む投資と考えるべきであるというとき、そこに想定されている

利益は、リスクの低減やイノベーションによる差別化によって確保できるような直接的利益と、市場と社会の進化にともなうSRI(社会責任投資)を呼び込み、企業活動のグローバル化への対応を可能とし、優良な人材を惹きつけるという間接的利益なのです。いうなればCSRは、将来的に利益を増大させ、企業価値を高めることになるという考え方です。

一方、日本の商家には、「売り手よし、買い手よし、世間よし」からなる三方よしと呼ばれる近江商人に代表される経営理念があります。「世間よし」を取り入れ、商いにおける徳義を重んじた近江商人の利益感は、商人にもかかわらず禁欲的な薄利を受け入れることでした。CSRとは利益感においてこそ異なるものの、それはまさにCSRの日本的源流といってもよいものであります。

次回以降は、現今CSRとの比較や、循環型社会に求められる経営理念とは何かということを念頭におきながら、個々の商家の家訓のなかに含まれている普遍的な考え方を探っていくことにしましょう。

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